京鹿の子絞 清江 和雄

職人たちとの出会いと
清江にしかできない仕事。

凄腕職人街に参加する者の多くが後継者として、工房や会社を継いでいる。しかし、京鹿の子絞の伝統工芸士・清江和雄は異例だ。彼はサラリーマン時代中に、病気で休んだ知り合いの職人の代わりに手伝ったのがきっかけで、職人の道を進む。子どもの頃からものづくりが好きで、何かを作るなら誰にも負けたくないという気持ちが人一倍強かった。そして、いつしか作ったことのないものを作りたい、誰もしないことをしたいと思うようになり、そんな時に京鹿の子絞と出会った。
職人の代わりと言っても、ほとんどが得意先への配達が主だったらしい。が、職人の仕事を見続けるということが彼にとって素晴らしい経験となっていた。元から器用だった彼は見よう見まねで仕事をこなせた。「アカンで元々やし、何でもチャレンジするのが好きやった」と清江は語る。物を作る仕事に喜びを感じ、すぐさまサラリーマンを辞め、職人の世界に足を踏み入れることとなった。
職人としての経歴を積むうちに清江は多くの職人と出会い、彼らから絞りの技術や下絵の付け方などの手ほどきを受ける。「僕の師匠は出会った人、みんな。みんなのええとこだけ盗んで腕を磨いていったんや」。そしてこう付け加える。「ただ人に教えてもらう時に大切なんは、知ったかぶりせんことやな。分からないことは聞く。聞くことは恥じゃない」。
そして、さまざまな職人から技術を伝授された清江は彼独自の仕事のスタイルを導きだす。それは、京鹿の子絞の全行程に自分が携わること。清江は職人から多くの技を教わることで、長い時間を費やす京鹿の子絞に必要な技術や美意識を理解できるようになった。しかし、清江はこう語る。「望んでそうなったわけやないね。ただ、今の社会やからこそ全行程を自分でやらなしゃないのかもな。自分がやらなければ、誰もやる人がおらんくなるしな」。清江は自分にしかできない仕事を確立し、京鹿の子絞の魅力を伝えるために尽力する。

作るものに息づく
清江の細かな心づかい。

京鹿の子絞の仕事において「色」がきちんと出たかどうかを確かめる時ほど、緊張することはないと言う。絞の糸をほどく瞬間もそうだが、特に染色屋から上がってくる時。通常、染色屋には色見本として小さなチップを付けて出すのだが、清江のイメージを忠実に再現することは難儀だと言う。以前、イメージした色が上手く出ず、七五三で子供が着る晴れ着のような配色になってしまい大失敗したことがあるらしい。多くの職人の力を注いでで仕上げていく京鹿の子絞。一反仕上げるまでの時間も膨大に費やし、色の具合でやり直しも余儀なくされるので最後の最後まで気が抜けない。その重圧のせいで安心できず、眠れない夜も多かったらしい。その分、色が綺麗に上がった時はホッと胸をなでおろす。「こっちの想像以上にええのが上がったら、そりゃもう気分は最高やね」。
最後の工程まで気が抜けない仕事をする一方で、逆に何も気にならない人とは仕事ができないと言う。「注意しても、“そうか”で終わる人には心配で仕事は出せない。“どこが悪かったですかね?”って聞いてくれる人みたいに気を使う人でないと、ええもんはできんやろうな」。清江の仕事は心づかいにあると言っても過言ではない。一緒に仕事をする職人への尊敬の念、発注者や問屋に対する気配り、お客さんとの対話。どれ一つとっても清江は手を抜かず、丁寧に対応する。例えば、納品をする前には少しの皺くらいなら自分で直せるように「湯伸し」もできるようにしている。清江は一つひとつの仕事の中に細かな心づかいを配している。だからこそ清江の京鹿の子絞は、彼に関わる人たちを喜ばせ続けられるのだろう。

良いお付き合いを
京鹿の子絞りで作る。

職人はお客さんに直接届けることができないというジレンマがある。その気持ちは清江も同様にあり、「商売人は10分の説明で終わるが、職人は1時間でも2時間でも商品について説明したい」と語る。それは「自分の作品」の良さを伝えるということではなく、お客さんに京鹿の子絞を気に入ってもらい使ってもらうためである。しかし商品を説明したいという熱い思いはあるが、それを無理にお客さんに押しつけることはしない。お客さんからの要望があった時、初めて熱い思いを語る。かつて絞を持っていた方や絞に憧れていた方は、そんな清江の思いを聞いてファンになる方が多いらしい。清江とお客さんの関係は、京鹿の子絞を間に挟んでゆっくり築かれていく。
清江は職人と職人、職人とお客さん、そして職人と発注者や問屋との関係づくりにも重きを置く。清江の元には、数十年間絶えず仕事の発注があるが、その秘訣をこう語る。「今でも仕事の発注があるのは、長年まじめに仕事をしてきたからや」。いい仕事をすることはもちろん、細かな部分にも配慮を効かせているから発注者や問屋も満足してもらえる。その信頼が次の仕事に自然とつながる。長年、そのことの繰り返し。
清江はさまざまな職人たち、そしてお客さんを通して多くのことを吸収してきた。その経験や知識の一つひとつが今の彼をしっかりと支えている。そんな彼は「次の仕事」についてこう考えている。それは、自分が覚えている技や知識を引き継ぐこと。例えば、清江が作成した「寸法表」がある。これは、職人一人ひとりの頭の中にある、さまざまな部位の寸法を清江が一つに集約したもの。清江のように全体を通して仕事に携わる立場でなければ作れなかった。自分がそうであったように、職人から受け継いだ知識や技術を若い人に全て教えたい。清江は、これから未来に残す仕事を行おうとしている。

清江 和雄

清江 和雄きよえ かずお

伝統工芸士
所在地
京都府亀岡市篠町見晴5-7-17
TEL/FAX
0771-24-2240
清江 和雄 (きよえ かずお)