豊かな山々に囲まれ琵琶湖やそこに流れ込む川が多い近江。多湿で肥沃な土地を育み、室町時代から良質な麻の産地だった。
近江上布とは、湖東地方で織られた布の総称。細い麻糸を平織りした張りのある麻織物が良く知られている。かつて農家の副業として織られた上布は、近江商人の手によって広がり、その品質の高さから全国に知れ渡る。
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大西新之助商店の主、伝統工芸士・大西實。近江の湖東に工房を構える。
大西は、織りはもちろん図案の構想・配色・型紙作り・染色・道具作り・原材料の栽培まで、近江上布に関わる製造工程をほぼ1人で行う。
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近江上布に使われる麻糸は、綿糸のように紡ぐのではなく「績む(うむ)」。麻糸は、繊維をそのまま取り出すので糸自体は伸び縮みせず、放熱性が良く、吸湿性にも優れている。麻は夏の着物として日本人にもなじみ深い。
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大西の仕事は麻糸を用意することから始まる。その次の工程は絣染めした3本の糸を1本に戻す「繰り戻し」。綿や絹糸に比べ、麻は伸縮性が無いので切れやすく、その日の温度と湿度を指先に感じながら微妙な力加減をして巻き取っていく。
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「新之助上布」の柄は、大西が図案の構想から手掛けている。伝統的な文様はもちろん、自ら考えた柄の提案も多い。その染めの型紙も柿渋和紙から大西自身が作る。
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横糸を染めるのは、古くから伝わる近江上布の技法の一つ。木枠に張った横糸を、自ら作った型紙を使って染めるのだ。その時の色の配合や色の組み合わせも、もちろん大西の仕事。今の時代に合った色を出し提案する。
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型紙捺染(なせん)とは、型付け台の上に糸巻きしたものを置き、型紙を密着させてその上から染料を含んだ糊をへらで押し付けて染色する方法である。
この後、ボイラーで羽根に巻いたまま蒸して色を定着。枠から外した糸を巻き直し、織りの横糸として使う。
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最後の工程は、織り。ここまで数多くの工程を1人で行い、最後の工程も大西の手で行う。
工房には古いものから新しいものまで多くの織り機が並び、織る上布の柄や文様、糸の強さなどに合わせて織り機を使い分けている。
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大西は伝統的な絣(かすり)の模様から、機械で織る現代的な縞模様まで手掛ける。
大西が手掛ける絣、“絣らしさ”を出すために手で一本一本の横糸を通す際に、布に揺らぎを作る。染めた横糸が揺らぎながら描く文様にリズムを与え、織り特有の表情が現れる。
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大西が考える、「平成の近江上布」に決まり事はない。
手で一つ一つ通して織って作る伝統的なかすりや、現代的な鮮やかな色の麻織物。最上級の上布から普段遣いの手頃な上布まで、多種多様な上布を織り上げる。
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大西はお客さんと直接やりとりし、要望を聞く。「こんな色が欲しい」「近江上布でこんな服を作って欲しい」といった声は製作の貴重なヒントだ。「やるんだったらとことんやったらええんや」と語る大西の近江上布は、現在、紳士用のシャツなどの洋服にも変わる。挑戦の日々。大西の近江上布は新たな形を求めて冒険を続ける。
職人たちの想い