16世紀後半にたばこの葉を刻む「たばこ包丁」が堺で作られるようになり、長い年月を経て堺の伝統的工芸品「堺打刃物」が完成した。
卓越したその切れ味に惚れて、現在、日本で活躍する料理人の過半数が堺打刃物を使っている。
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堺打刃物は「鍛冶」「刃付(はつけ)」「柄づくり」など、それぞれの技術に特化した職人たちの技を結集させて理想の1本を作る。
森本刃物製作所の伝統工芸士・森本光一は、研いで刃をつける「刃付」という仕事を担う。
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切れ味が良く、研ぎやすく欠けにくい堺打刃物。まず、「鍛冶」という仕事から始まる。
硬い刃金(はがね)と粘りのある地金(じがね)2種類の鉄を鍛接し、それぞれの長所を合わせ持った包丁の原型、包丁種を作る。森本が良い刃付をするためには、鍛冶職人の良い仕事が欠かせない。
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「鉄の打ち締め」「焼き入れ」など、鍛冶は手間が多い。堺打刃物の切れ味を守るためだ。「焼き入れ」で真赤に焼けた鉄を水に入れて一気に冷やし、硬度を高めるのも切れ味を鋭くする工夫。
これらの技や知識も先人たちが挑戦した結果であり、現在もなお生きている。
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さらに幾つかの工程を経て、硬さと粘りを併せ持った包丁地が出来上がる。堺打刃物の仕事は、鍛冶職人から刃付職人・森本へ。
まだ包丁と呼ぶより鉄の塊に近い。森本は1本1本の包丁種の状態を見極め、鍛冶職人の仕事に応える。
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刃付けの仕事は、研ぐと言うよりも削り出す感じに近い。
高速で回転する数種類の回転研石を使い分けながら、鉄の塊から少しずつ削り出し、包丁の形に近づけていく。
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研ぎは始終、歪みとの戦い。鍛冶の歪みも研ぎで調整する。森本はわずかな鉄の歪みを感じ取り、細かく直しながらひと磨きずつ慎重に包丁の形を整えていく。
森本の頭の中にある包丁の形と照らし合わせながら。
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森本は、日本の包丁は完成した形だと言う。重心のバランスが良く、美しい。
包丁の形へ近づけるために磨く。この段階まで来ると少しの歪みも許さない。
薄皮を剥ぐようにひと磨きずつ、丁寧に包丁の形を生んでいく。
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包丁の形を作り上げると、次は包丁の肌を整える。
堺打刃物は各部で表情が違うのが特徴だ。羽布(ばふ)や木砥という道具を使い、きめ細かな鉄の光沢を生み出す。さらに「際引き」や「霞ぼかし」といった包丁の各部に美しい表情を与える。丁寧に仕事を重ねることで、日本刀の刃紋のように刃金と地金の文様を刃境が際立ち、凛とした表情を醸し出す。
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仕上げに目の細かい砥石で刃先を丁寧に研ぎ上げ、包丁の切れ味を整える。
完成に近づくにつれ、森本が理想とする重心のバランスと美しい質感が備わっていく。
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堺の鍛冶と研ぎの技術を集約し、完成した包丁。形・光沢・質感、そして切れ味は他の追随を許さない品質と品格を備える。
「包丁ではなく、料理に役立つ道具を作っている」と森本は言う。包丁一つで料理の味は変わる。今日もどこかで森本の包丁によって、おいしい料理が作られている。