象嵌は地金に溝を刻み、金銀を埋込んで文様を表す加飾の技法。
肥後象がんは、刀の鐔(つば)や鉄砲などの装飾品として江戸時代初頭から現代まで、熊本の地で受継がれてきた。純粋な装飾である故に、武家文化の美意識を純粋な形で表現するための技法として発展してきた。
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伝統工芸士・津崎 洋子は、肥後象がんの伝統にデザインを取り込んだ先駆者の一人。象嵌の技法を用いながら、津崎の作品は華やかな現代的なジュエリーとして、軽やかに伝統工芸の枠を飛び越えてゆく。
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現代の肥後象がんとして、ジュエリーを提案する津崎の仕事は形を考案することから始まる。常にジュエリーのデザインを考え続ける津崎は、アイデアをまず紙に写し取る。
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鉄の板に下絵を写し、デザインに沿ってヤスリで削って形を整える。ここから伝統の技術を受け継いだ、津崎のジュエリーが生み出される。
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松脂で固定した地金に、縦、斜め、横の溝をタガネでしっかりと刻む。溝を刻むことで異なる金属がしっかりと噛み合わせる、象嵌ならではの手法。
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金や銀の小さな部材や針金を、地金に刻んだ溝に乗せて鹿の角で丹念に叩き、溝に食い込ませる。作品に立体的な奥行きを持って文様が描かれるのは、一体となった異なる金属が描きだす魅力の一つ。
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鉄の地金の部分は黒皮や黒錆と呼ばれる酸化皮膜。赤錆とは違って、それ以上そこから錆は進まなくなり、独特の風合いを持つ。
茶で煮ることで鉄に黒皮が出来ることは、寺院建築の釘や鋲などでも見られる昔からの知恵。津崎の象嵌もその知恵を活かし、地金に鈍く艶やかな黒い光沢を加える。
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黒皮を付けた作品は油で焼いて光沢を加えて完成する。
津崎はこれにジュエリーとしてピンやチェーンなどの金具を取付ける。
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武家文化で育まれた技法を現代に活かす。
黒い地金と埋込まれた金銀のコントラストで優雅な曲線を描く津崎のペンダントやブローチなどの作品は、女性が身につけるジュエリーとして、まるでそこにあるのが当たり前だったかのように輝いている。