漆の木や木地になる欅(けやき)・档(あて)などが豊富にあった輪島は古くから漆器が作られてきた。
江戸時代にはその質の高さから、北前船や行商を通じて全国に知れ渡る産地となる。漆器の中でも特に高い堅牢性と、優美でどっしりとした重厚な風合いが輪島塗の特徴。
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輪島塗の伝統工芸士・津田 哲司は塗師。
輪島では、木地作りから下地、塗り、蒔絵、沈金など、幾つもの工程をそれぞれの専門の職人が担当する分業制。職人達の技能が合わさって一つの漆器が出来上がる。
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堅牢性を重視する輪島の木地は厚い。
輪島塗にはロクロで作る椀木地のほか、指物木地、朴木地、曲物木地などの技術が伝わり、数多くの形を生み出している。輪島塗は木地をそのまま使うのではなく、木地に生漆を染み込ませて、漆で強く固めた木地を使う。
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布着せとは、木口や面の弱い部分に麻布や寒冷紗と呼ばれる布を貼付けて補強する手法。
漆で固めた木地の上に、さらに割れずに漆も剥がれない強固な下地を作ってゆく。
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布を貼った表面を滑らかにし、珪藻土から作る「地の粉」を混ぜた下地を塗り固めてゆく。ものによっても異なるが、下地は4回は塗り重ねる。
これらの手間と漆を惜しみなく注ぎ込んだ下地作りが、輪島塗の堅牢性を約束する。
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下塗りの後、さらに中塗り、小中塗りなどの幾つもの工程を経て、出来上がった堅牢な木地に上塗りを施す。服から細かなホコリが舞うのも許さず、空気中の湿度を感じて漆の乾き具合を知るために、この工程を裸で作業を行う職人も多い。実は、津田もその一人。
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古い歴史を持つ輪島には、仕上げの種類も幾つもある。
呂色(ろいろ)は漆特有の艶を出した仕上げ。刷毛の跡をなくすように呂色炭で研ぎ上げて表面を平滑にし、手や擦り漆などで仕上げる。
輪島塗に見られる水のような漆の光沢は、ここで生まれる。
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漆器の代表的な華飾の方法に「沈金」と「蒔絵」がある。沈金は呂色で仕上げられた塗面にノミで模様を彫り、その溝に金を擦り込んで模様を描く手法。
輪島では特に沈金が発展してきた。輪島塗の独特の技法で作られる分厚い漆の層が、深い彫りを加える技法を可能にしている。
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日常品として作られ始めた輪島塗は、他の産地とは比較にならないほど丈夫だ。
「本物の輪島塗は100年保つ」と津田は言う。表面の美しさはもちろん、下地づくりまで徹底して堅牢性を追求している。角にぶつけてもへこまないほど、道具としても優れている。
津田は、漆が厚くなる「溜め塗」などの表現にも取り組み、輪島塗の新しい表現にも取り組み続ける。